🌊 シュレディンガー方程式を導く
STAGE 1 ― 波を数式で書く ―
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🗺️ マップ
STAGE 1

波を数式で書く

sin で波を描く
🎯 ミッション
sin の定義から出発して、右に走る波を一つの式 y=A sin(kx−ωt) で書けるようになろう。振幅・波長・周期・振動数・波数・角振動数を、自分の言葉で説明できれば合格。
未達成
ねこ博士
今回の旅の目的地を、最初に見せておこうね。量子力学の教室で、電子は波動関数 ψ(プサイ)というで表されることを学んだ。二重スリットの縞模様も、原子がつぶれずにいられる理由も、ぜんぶ ψ の仕業だった。……ところがあの教室では、いちばん大事な質問をまだしていないんだ。その波 ψ は、どんな法則にしたがって動くのか? ニュートンの力学には F=ma という大黒柱があるね。力 F が分かれば、質量 m の物体がどう加速するか(a)が計算できて、未来の運動が予言できる。じゃあ、波 ψ にとっての「F=ma」は何なのか。その答えが、1926年にシュレディンガーが見つけたシュレディンガー方程式だよ。このクエストでは、あの方程式を、いきなり完成品として覚えるのではなく、シュレディンガーがやった発見を、自分の手でもう一度やり直す
うさ美
整理させてください。電子が波だということは、二重スリットの実験で納得しました。1個ずつ発射した電子が、たくさん集まると縞模様を作る。でも言われてみれば、あの波がどんな規則で伝わって、どんな形に変わっていくのかは、一度も教わっていません。規則の式がなければ、予言もできない。物理として半分しか完成していないわけですね。……ただ、方程式を探す前に、もっと手前でつまずいています。そもそも「波」を数式でどう書くんですか? 波の絵なら描けますけど、絵は計算できません。
ねこ博士
いい順序で考えているよ。波の方程式を探すには、まず波を式にする道具が要る。そして道具は、実はたった一つでいいんだ。sin(サイン)――複素数の教室で、複素数を「長さと角度」で書くときに使ったあれだね。今日の使い方に合わせて、定義をそろえ直しておこう。半径1の円を描いて、円の上を反時計回りに動く点を考える。スタート地点は真横(時計の3時の位置)。中心から見てスタートから測った角度を θ(シータ)とするとき、その点の高さ(中心の高さから測った縦の位置)を sinθ と呼ぶ。あの教室で言った「角度 θ へ長さ1進んだときの、縦の距離」と同じものだよ。
うさ美
高さ、ですか。それなら自分で値を求められそうです。θ=0 なら点は真横だから高さ 0。θ=90° なら真上だから高さ 1。θ=180° で反対側の真横に来て高さ 0。θ が 180° を超えると円の下半分に入るから、高さはマイナス。270° で −1、360° で一周して元の場所、高さ 0。……ということは、θ をさらに増やし続けても、同じ高さの列が延々と繰り返されるんですね。sin は「繰り返す数」だ。
ねこ博士
そのとおり。では、横軸に θ、縦軸に sinθ をとってグラフにしてごらん。円を回る点の高さを、そのまま横に写していくんだ。出てくる曲線こそ――波の形そのものなんだ。円運動の「影」が波。これが、波と sin がつながる理由だよ。
円を回る点の「高さ」を、横に並べると波になる 半径1の円 θ 角度 θ → 高さ(sinθ)
sin の定義。半径1の円の上を反時計回りに動く点の高さが sinθ。角度 θ を横軸にして高さを並べていくと、上がって下がってを繰り返す曲線――サインカーブが現れる。波の形の正体は、円運動の影だった
ねこ博士
角度の測り方も、ここでそろえておこう。これからは「度」ではなくラジアン――複素数の教室で e を導く前に約束した、あの単位を使う。決め方は半径1の円の上を、点が実際に歩いた道のり(弧の長さ)で角度を測る、だったね。半径1の円の一周の長さは、円周の公式から 2π(パイ)=約6.28。だから一周=360°=2π ラジアン、半周=π、直角=π/2。なぜわざわざ乗り換えるかというと、「角度=歩いた距離」になっていると、この先の式から換算の係数が消えて、驚くほどきれいになるからなんだ。
うさ美
円周率 π=3.14…… の2倍だから 2π=6.28……ですね。つまり sin は 2π ごとに同じ値を繰り返す。式で書けば sin(θ+2π)=sinθ。この「2πで一周」が、繰り返しの基本単位になるわけですか。
ねこ博士
それが今日いちばん働く事実だよ。では本番。写真のように時間を止めた波を式にしてみよう。海の波をパシャリと撮ったところを想像してごらん。横軸はもう角度ではなく、場所 x(単位はメートル)だ。波の山から次の山までの距離――繰り返しのひと区切りの長さ波長と呼んで、λ(ラムダ)と書く。そして波の高さの最大値を振幅 A と呼ぶ。ほしいのは「x が λ 進むごとに、同じ高さが繰り返される」式。sin は中身が 2π 増えるごとに繰り返すのだから、x が λ 進んだとき、sin の中身がちょうど 2π 増えるように仕組めばいい。そこで x を λ で割って 2π を掛ける。つまり――
【止まった波のスナップショット】 y = A sin(2πx/λ) A:振幅(波の高さの最大値) λ:波長(山から次の山までの距離) x:場所〔m〕
うさ美
検算してみます。x の場所の高さは A sin(2πx/λ)。そこから波長ぶん進んだ x+λ では、sin の中身が 2π(x+λ)/λ = 2πx/λ + 2π。sin は 2π 増えても同じ値だから、高さはまったく同じ。……確かに、λ ごとに景色が繰り返す波になっています。x/λ は「波長何個ぶん進んだか」という個数で、それに「1個あたり2π」を掛けている、と読めばいいんですね。
動かしてみよう: y = A sin(2πx/λ) +A −A 同じ高さ λ 場所 x〔m〕
3.0 m 1.00 m 1.0 m
2πx/λ = 2.09 2π(x+λ)/λ = 8.38 差 = 6.28(=2π)
高さ y(x) = 0.87 m 高さ y(x+λ) = 0.87 m ← 必ず一致
3つのスライダーを動かせる。金の点が場所 x、青の点がそこから波長1個ぶん進んだ x+λ。λ を変えれば波の細かさが、A を変えれば高さが変わるが、x をどこへ動かしても2つの点の高さは必ず一致する。数値欄を見ると、sin の中身(位相)はいつもちょうど 2π=6.28… だけ増えている――これが「λ ごとに同じ景色が戻ってくる」ことの正体。薄い縦線は λ ごとの区切りで、その1区間が波1個ぶんの「タイル」にあたる(波長を短くしすぎると線が混み合うので、その場合は省かれる)
ねこ博士
いい読み下しだね。さて、本物の波は写真のように止まってはいない。走る。次はこの式を動かそう。そのための道具が、グラフの平行移動の技だ。関数 f(x) のグラフに対して、f(x−d) のグラフは、元のグラフを右に d だけずらしたものになる。少し不思議に感じるかもしれないね。マイナスなのに右へ動く。理由を確かめよう。f(x−d) に x=d を入れると f(0)。つまり元のグラフが x=0 で見せていた景色が、新しいグラフでは x=d の位置に現れる。景色がそっくり右へ d 引っ越したわけだ。
うさ美
なるほど、「引く」のは入力を昔に巻き戻す操作だから、出力の景色は逆に前へ進むんですね。……ということは、です。ずらす量 d を時間とともに増やせば、グラフは右へ走り続ける。速さ v で走らせたいなら、t 秒後のずれは d=vt。さっきの波の式の x を x−vt に置き換えて――y = A sin(2π(x−vt)/λ)。速さ v で右に走る波の式、できました!
ねこ博士
いいね。この式をいろいろな目で眺めてみよう。まず、1か所に立って波を見張るとどうなるかな。海に浮かんだブイを想像するといい。ブイは横には流されず、波が通り過ぎるたびにその場で上下する。1回の上下(山が来て、谷が来て、次の山が来るまで)にかかる時間を周期 T と呼ぶ。波は速さ v で走っていて、山と山の間隔は λ だから、次の山が来るまでの時間は T=λ/v。そして1秒間に何回上下するか振動数 ν(ニュー)と呼ぶ。1回に T 秒かかるなら、1秒には 1/T 回できるから ν=1/T だ。単位はヘルツ(Hz)。ラジオの「81.3メガヘルツ」は、電波が1秒に8130万回振動しているという意味だよ。
走る波と、その場で上下するブイ ブイ(場所は固定) 速さ v → A 山の高さ=振幅 A λ(波長)=山から山まで
速さ v で右に走る波 y=A sin(2π(x−vt)/λ)。振幅 A は波の高さの最大値、波長 λ は山から次の山までの距離。場所を固定して見張ると(赤いブイ)、波が通り過ぎるたびにその場で上下し、1回の上下にかかる時間が周期 T=λ/v、1秒あたりの上下の回数が振動数 ν=1/T
ねこ博士
仕上げに、記号を整理しておこう。これから何度も出てくる組み合わせに、専用の名前をつけるんだ。まず sin の中身を展開すると 2πx/λ − 2πvt/λ。ここで v/λ=1/T=ν を使うと、第2項は 2πνt になるね。そこで――k = 2π/λ波数(はすう)ω(オメガ)= 2πν角振動数と呼ぶことにする。すると波の式は y = A sin(kx − ωt)。すっきりしたね。読み方はこうだ。k は「1メートル進むと、sin の中身(位相)が何ラジアン進むか」――つまり波の細かさ。λ が短い(細かい波)ほど k は大きい。ω は「1秒たつと、位相が何ラジアン進むか」――つまり振動の速さだ。円の絵で言えば、1秒に何ラジアンぶん円を回るか、だね。
うさ美
「位相」というのは、sin の中身のことですね。円の絵でいういま何度のところにいるか。k は空間方向の回転ペース、ω は時間方向の回転ペース。対になっていてきれいです。……ひとつ気づいたことが。新しい式には v が出てきません。でも λ=2π/k、ν=ω/2π と読み替えられるので、さっきの v/λ=ν――つまり v=λν に入れてみます。v=(2π/k)×(ω/2π)=ω/k。消えたのではなくて、k と ω に分けて持たせたんですね。
ねこ博士
そう。だから式に v を書く必要がないんだ。……裏を返すと、波を1本書くのに本当に要るのは A と k と ω の3つだけ。速さはその3つから後で出てくる。……さあ、これで「波を数式で書く」道具はそろった。y=A sin(kx−ωt)。この一本が、海の波も、音も、ギターの弦も、光さえも記述する万能の型だ。次はいよいよ、これを電子の波 ψ につないでいく。
① 空間の写真 ― 1 m 進むと、位相は k だけ進む ② その場の記録 ― 1 秒たつと、位相は ω だけ進む
2.09 3.14 0.00 s
空間:k = 2.09 rad/m λ = 2π/k = 3.01 m 1 m で位相 +2.09 rad
時間:ω = 3.14 rad/s ν = ω/2π = 0.50 Hz T = 1/ν = 2.00 1 秒で位相 +3.14 rad
波の速さ v = ω/k = 1.50 m/s
同じ波 y=A sin(kx−ωt) を、2つの見方で並べたもの。 は時間を止めた写真で、横軸は場所。金の帯は1 m ぶんの区間で、赤い点から金の点へ進む間に位相が k だけ増える――k を大きくすると波が細かくなる(λ=2π/k が縮む)。 は場所を x=1 m に固定して、そこの高さを時間の流れに沿って記録したもの。青の帯は1 秒ぶんで、その間に位相が ω だけ増える――ω を大きくすると速く上下する(T=2π/ω が縮む)。赤い点は①と②で同じ点(時刻 t の x=1 m)なので、2つのグラフで高さが一致する。t を動かすと、①の波形は右へ流れ、②の赤い点は記録の上を右へ進む
うさ美
楽しみです。……あ、思い出しました。量子力学の教室で、実数の波では困るという話がありましたよね。sin の波は必ずどこかで高さが 0 になるから、見つかる確率にも縞ができてしまう――運動量だけが決まった電子に「いてはいけない場所」が等間隔に並ぶのはおかしい、と。今日組み立てたこの形、まさにその sin です。たしか教室では、その先で複素数の波が出てきました。今日の式も、あれに書き換えることになるんでしょうか。
ねこ博士
よく覚えていたね。そのとおり、sin だけで電子の波を書こうとすると、あのときの不都合がそのまま起きる。そして答えの名前も、きみはもう知っているわけだ――複素数の波 e。ただ、教室で見たのは完成した絵だけで、その波がどういう式なのかは置いてきたね。次のステージでやるのは、それを今日の式から自分の手で組み立てることだよ。きみが複素数の教室で鍛えた「回る矢印」が、ここで物理の表舞台に立つ。
【このステージの成果】 右に走る波: y = A sin(kx − ωt) k=2π/λ:波数(1mあたり位相が進むラジアン数=波の細かさ) ω=2πν:角振動数(1秒あたり位相が進むラジアン数) T=1/ν:周期 v=ω/k:波の速さ

確認クイズ

Q1. 波長 λ とは何の長さ?

Q2. 止まった波の式の x を x−vt に置き換えると、波が右に走り出すのはなぜ?

Q3. 波数 k=2π/λ が「大きい」波とは、どんな波?

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