🌊 シュレディンガー方程式を導く
STAGE 2 ― 回る矢印 e
クリア 0 / 8
🗺️ マップ
STAGE 2

回る矢印 e

複素数の波
🎯 ミッション
オイラーの公式 e=cosθ+i sinθ を「回る矢印」として説明できるようになり、電子の波を ψ=A ei(kx−ωt) に書き換えよう。複素数の波が sin より優れている理由を2つ言えれば合格。
未達成
ねこ博士
前回きみは、量子力学の教室で聞いた不都合を思い出してくれたね。「sin の波は必ずどこかで高さが 0 になるから、見つかる確率にも縞ができてしまう。運動量だけが決まった電子に『いてはいけない場所』が等間隔に並ぶのはおかしい」。そして、それを救うのが複素数の波だということも、きみはもう聞いている。教室で渡されたのはそこまで――回る矢印の絵と、結論だけだった。今日はその波を、前回の sin から式として組み立てる。きみが複素数の教室で鍛えた道具が、ここで物理の主役になるよ。まずは道具の点検からだ。要点を自分の言葉で整理してごらん。
うさ美
はい。複素数は、2乗すると −1 になる数 i(i²=−1)を認めて、a+bi の形に広げた数でした。ただの記号遊びではなくて、平面の点(あるいは原点から伸びる矢印)だと思うのがいちばん分かりやすかったです。横軸が普通の数(実部 a)、縦軸が i の個数(虚部 b)。そして掛け算がきれいでした。i を掛けると、矢印が反時計回りに90°回る。実際、1 に i を掛けると i(真上)、もう一度掛けると i²=−1(真横の逆)、もう一度で −i(真下)、4回で 1 に戻る。90°回転を4回で一周、辻褄が合っています。
ねこ博士
いい復習だね。では、その道具箱からもう一つ取り出そう。きみが複素数の教室の最後にたどり着いたオイラーの公式だ。
e = cosθ + i sinθ
今日はこれを、物理の表舞台に立たせる。使う前に、要点だけ確かめ直しておこうね。まず記号から。cos(コサイン)は sin の相棒で、前回の円の絵で言えば、円を回る点の横の位置のこと(sin は縦の位置だったね)。そして e は約 2.718 という定数。複素数の教室では「1円を年利100%で、利息を無限に細かく分けて複利にすると1年後に e 円になる」という成長の極限として出会った数だね。そしてこの公式が言っていたのは、こういうことだ。e の肩に「i×角度」を乗せると、単位円の上の、角度 θ の位置の点になる――つまり e長さ1の、角度 θ を向いた矢印そのものだ、と。何度見ても驚く主張だよ。
うさ美
横の位置が cosθ、縦の位置が sinθ の点だから、複素数として書けば cosθ+i sinθ。右辺が「単位円上の角度θの点」を表すことは、定義そのままです。左辺とのつながりも――複素数の教室でたどった筋を思い出しました。et という関数は「増える速さが、いまの量そのもの」でした。預金の複利と同じで、残高が多いほど利息も多い。その肩に i を乗せると、変化の速さに i が掛かって i × いまの値。i を掛けるのは90°回転ですから、動く向きはいつもいま向いている向きと直角になります。ひもの先に石をつけて振り回すのと同じで、進む向きがいつも直角なら、軌跡は円。だから e は単位円の上を回る矢印になる――そういう話でした。
ねこ博士
よく覚えていたね。そこに、ひとつだけ足しておこう。なぜ θ がそのまま「角度」になるのかだ。スタートは θ=0 で e0=1、つまり単位円の真横(3時の位置)。矢印の長さは1で、変化の速さも |i×1|=1 だから、θ が 1 進むあいだに円周の上をちょうど 1 だけ歩くことになる。前回ラジアンを「半径1の円で歩いた道のり=角度」と決めたから、θ はそのまま角度になるわけだ。まとめると――e単位円上を反時計回りに、角度 θ まで回った矢印。横の位置(実部)が cosθ、縦の位置(虚部)が sinθ。オイラーの公式は、この観察を1行に書いたものだよ。
e = 単位円上を回る、長さ1の矢印 実部 虚部 e cosθ sinθ 1 i −1 −i i を掛ける=90°回転 1 → i → −1 → −i → 1 (4回で一周) 矢印が回る向き (θが増える)
オイラーの公式の絵解き。e は複素数平面(横軸=実部、縦軸=虚部)の単位円上を反時計回りに回る長さ1の矢印で、横の位置が cosθ、縦の位置が sinθ。「変化の速さ=i×いまの値」=いつも進行方向と直角、だから円を描く。ひもの先で振り回した石と同じ理屈
【オイラーの公式】 e = cosθ + i sinθ e=長さ1・角度θの矢印 実部=cosθ(横の位置) 虚部=sinθ(縦の位置)
ねこ博士
では、この矢印でを作ろう。前回の波 y=A sin(kx−ωt) の心臓部は、位相 kx−ωt だった。この位相を、sin の中身ではなく矢印の角度として使うんだ。
ψ(x, t) = A ei(kx−ωt)
絵で想像してごらん。数直線の各地点 x に、小さな時計の針(矢印)が1本ずつ立っている。x の地点の針の角度が kx−ωt だ。ある瞬間 t で見ると、右の地点ほど kx のぶん角度が進んでいる――針の向きが場所とともにくるくるねじれて、らせん階段のようになっている。そして時間が経つと、ωt のぶんすべての針がいっせいに回る
ψ=Aei(kx−ωt):回る針の列と、その影(sin)は同じ1枚の絵 ━ 針(本体)=ψ ━ 影(虚部)=A sin(kx−ωt) λ=2π/k 各地点の針の高さ(縦成分)を拾って結んだものが、青い sin の波。 点線は「針の先」と「同じ高さの波の点」を結んでいる
1.57 1.00 1.00 0.00 s
λ = 2π/k = 4.00 m(1波長の長さ) T = 2π/ω = 6.28 s(針が1回転する時間)
複素数の波の想像図。各地点 x に矢印(針)が1本ずつ立ち、その角度は kx−ωt。ある瞬間には右の地点ほど角度が進んでいて(らせんのねじれ)、時間が経つと全部の針がいっせいに回る。針の先の高さだけを拾って結んだのが青い sin の波――本体は針、sin は影。針は回り続けて長さが変わらないのに、影は 0 を通る。k を上げるとねじれが細かくなり(=波長が短くなり)、ω を上げると針が速く回る(=波が速く走る)。A は針の長さ。時間を止めて t を手で動かすと、1周期ぶんをコマ送りできる
うさ美
針の縦成分(虚部)だけを取り出せば A sin(kx−ωt)、横成分(実部)なら A cos(kx−ωt)。つまり前回の波は、この回る針の「影」だったんですね。針ぜんぶが回ると、影の波形が横に走って見える。……本体は針で、sin は影。
ねこ博士
「本体は針で、sin は影」――今日の教訓を先取りされてしまったね。では、なぜ物理学者はわざわざ本体(複素数)で書くのか。強みは2つある。強みその1は、教室では絵で眺めるだけだった、あの不都合の解消だ。今日は式で確かめられる。矢印の長さを考えてごらん。影(sin)の高さは、場所を右へたどるだけで A→0→−A→0 と上下に暴れる。では、回っている矢印そのものの長さは、場所や時刻でどう変わるかな。
うさ美
変わりません。回転は向きを変えるだけで、長さは変えない。ψ=A ei(kx−ωt) なら、どの場所でもどの瞬間でも矢印の長さは A のままです。A を大きく取れば針は全部そろって長くなりますが、それはこの波をどれくらいの強さにするかという最初の選び方で、場所や時刻のせいで伸び縮みするわけではありません。「波の強さ」が場所によって消えたり現れたりしない。見つかる確率に縞ができる、あの不都合が消える――教室で見せられた絵は、式にするとこれだったんですね。……そうか、いま分かりました。影(sin)だけ見ていたから 0 に見えたんだ。本体の針は、影が 0 になった瞬間も横を向いて堂々と存在していた。
ねこ博士
そのとおり。その矢印の長さは、複素数の教室でやった絶対値だね。|a+bi|=√(a²+b²)、三平方の定理そのものだった。波の場合は |ψ| と書く。cos²θ+sin²θ=1 だから |e|=1、よって |ψ|=A で一定。強みその2は、この先の導出の生命線になる。予告だけしておこう。次の次のステージで、私たちは波を微分という道具にかける。詳しくはそのときやるけれど、sin は微分すると cos に化け、cos は −sin に化ける。形がころころ変わるんだ。ところが e は、微分しても i が1個前に出てくるだけで、自分自身のまま。「変化の速さ=i×いまの値」という、さっき円運動を導いたあの性質そのものだよ。形が崩れないから、方程式の材料として圧倒的に扱いやすい。
うさ美
1つ確認させてください。海の波や音の波も、同じ理由で複素数で書くべきなんですか? 水面の高さが複素数というのは、さすがに変な気がします。水面の高さは、メジャーで測れる普通の数のはずです。
ねこ博士
とても大事な区別だよ。海の波や音では、複素数は計算を楽にするための便利な道具にすぎない。計算の最後に「実部だけ取り出す」と約束して、本当の答えはあくまで実数だ。ところが量子力学では事情がまったく違う。教室で「複素数は便利なのではなく必須だった」と聞いたのは、この違いのことだよ。ψ そのものが本質的に複素数で、実部だけ取り出しても正しい物理にならないんだ。なぜそう言い切れるかは、方程式が完成したステージ5で、方程式自身が教えてくれる。式の中に i が堂々と居座るのを、きみは目撃することになる。……ここでは伏線として、こう覚えておいてほしい。ψ は観測にかかる「高さ」ではない。じゃあ観測にかかるのは何か――それはステージ7で、|ψ| が主役になって答えてくれる。
うさ美
伏線が2本になりましたね。「i が方程式に居座る」と「観測にかかるのは |ψ|」。……道具はそろってきました。波の式 ψ=A ei(kx−ωt) の中には、波の細かさ k と、振動の速さ ω が入っています。でもこれはまだ波の言葉だけの式です。電子は粒でもあって、エネルギー E や運動量 p という粒の言葉を持っているはず。次は、この2つの言葉をつなぐんですね。
ねこ博士
その接続こそ、次のステージの仕事だよ。翻訳ルールはたった2本。しかもどちらも、量子力学の教室ですでに出会っている式だ。プランクとアインシュタインが光に見つけ、ド・ブロイが電子へ裏返した、あの2本――E=hν と p=h/λ。次回、この「辞書」を丁寧に読み直そう。
【このステージの成果】 電子の波: ψ(x, t) = A ei(kx−ωt) 強み①:|ψ|=A で一定(波の強さが場所や時間で消えない) 強み②:微分しても形が崩れない(i が前に出るだけ・詳細はSTAGE4)

確認クイズ

Q1. 複素数に i を掛けることの、図形的な意味は?

Q2. e の大きさ(矢印の長さ)|e| は?

Q3. 電子の波を sin ではなく ei(kx−ωt) で書く強みとして、このステージで挙げた2つの組み合わせは?

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