🌊 シュレディンガー方程式を導く
STAGE 3 ― 光の粒と物質の波 ―
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STAGE 3

光の粒と物質の波

E=hν と p=h/λ
🎯 ミッション
E=hν と p=h/λ がどんな実験から生まれたかを説明できるようになり、ℏ=h/2π を使って E=ℏω・p=ℏk という「波と粒の辞書」に書き換えよう。
未達成
ねこ博士
現在地を確認しよう。私たちは電子の波を ψ=A ei(kx−ωt) と書けるようになった。この式に入っているのは、波の細かさ k と、振動の速さ ω――どちらも波の言葉だ。ところが、私たちが最終的に知りたい電子の性質は、エネルギー E や運動量 p――粒の言葉だね。今日はこの2つの言葉をつなぐ辞書を用意する。量子力学の教室で出会った、あの2本の式だ。まず1本目、E=hν。どんな実験から生まれたのだったか、覚えているところまで話してごらん。
うさ美
はい、光電効果ですね。金属に光を当てると、表面から電子が飛び出してくる、あの実験。復習を兼ねて、要点を自分の言葉で整理します。不思議だったのは、明るさを増やしても電子1個1個の勢いは変わらず、個数だけが増えること。勢いを決めるのは色(振動数 ν)のほうで、青い光ほど電子1個が速くなり、ν がある限界より小さい赤い光では、どんなに明るくしても1個も出てこない。アインシュタインの読み解きはこうでした。光はエネルギーの粒(光子)の集まりで、粒1個のエネルギーが E=hν。電子を叩き出すのは光子1個との衝突だから、明るさ=粒の個数、色=粒1個のエネルギー。そう考えると、謎が全部ほどけるのでした。
ねこ博士
その通り、それで十分だ。比例定数 h はプランク定数、約 6.6×10⁻³⁴ ジュール秒という、とてつもなく小さい数だったね。では、2本目の式に進む前に、運動量をもう一度そろえておこう。量子力学の教室で出会ったとおり、物体の運動量 p は質量 m × 速度 v――「動きの勢い」「止めにくさ」を表す量だったね。同じ速さでも、卓球の球よりボウリングの球のほうが止めにくい。質量のぶん勢いが大きいからだ。物理学者がこの量を特別扱いするのは、衝突の前後で全体の運動量が必ず保存されるという、宇宙で例外の見つかっていない法則があるからなんだ。さて、光もぶつかった相手を押す。彗星の尾が太陽と反対側にたなびくのは、太陽の光が塵を押すからだ。つまり光も運動量を持つ
うさ美
待ってください。そこが引っかかります。運動量は質量×速度でしたよね。でも、光の粒に重さがあるとは思えません。重さが 0 なら、どんなに速く飛んでも 0×速度 で、運動量も 0 になってしまいます。それなのに、押せるんですか。
ねこ博士
その引っかかりは正しいよ。しかも見立ても当たっていて、光子の質量はほんとうにゼロだ。答えは順番のほうにある。p=mv は、運動量の定義ではないんだ。あれは「重さのあるものが、光の速さに比べてゆっくり動いているとき」に成り立つ近似の式でね。運動量の正体は式ではなく、ぶつかったときに受け渡される量のほうにある。だから確かめ方も単純だ。当たったものが押されたなら、それは運動量を運んできた。……そして光が押すことは、計算の中の話ではなく測れる事実だよ。日本の探査機「IKAROS」は2010年、燃料を使わずに、太陽の光を大きな帆で受けるだけで加速してみせた。光が押さないなら、あの帆は1ミリも進まない。レーザー光で細胞や微粒子をつまんで運ぶ「光ピンセット」も、光が運動量を受け渡すことを利用した道具だよ。
うさ美
……つまり私は、特別な場合にだけ使える式を、一般の法則だと思い込んでいたわけですね。「重さがないから運動量もない」は、p=mv を信じすぎた結論だった。では、重さがゼロのものの運動量は、何で決まるんですか。
ねこ博士
そこで相対性理論の出番だ。エネルギー・運動量・質量の関係は、ほんとうは1本の式にまとまっていてね。
E²=(pc)²+(mc²)²
読み下すと「エネルギーの2乗は、動きのぶん質量のぶんの足し算」。この式に、3通りの場合を入れてみよう。止まっている重いもの(p=0)なら、残るのは E=mc²――あの有名な式だ。ゆっくり動く重いものなら、見慣れた p=mv が近似として戻ってくる。そして質量ゼロのもの(m=0)を入れると、質量のぶんがまるごと消えて E=pc だけが残る。p=mv と E=pc は別々の法則ではなく、同じ1本の式の両端なんだ。だから光は、質量ではなくエネルギーを持っていることによって運動量を持つ。この1本の式そのものの導出は相対性理論の仕事だから、今日は事実として借りておこう。
うさ美
その「戻ってくる」が引っかかります。E²=(pc)²+(mc²)² のどこをどういじったら、p=mv が出てくるんですか。
ねこ博士
やってみせよう。使うのは因数分解だけだよ。まず (mc²)² を左辺に移す。
E²−(mc²)²=(pc)²
左辺は「2乗ひく2乗」の形だから、和と差の積に分解できるね。
(E−mc²)(E+mc²)=(pc)²
ここで「ゆっくり」が効いてくる。ゆっくり動くものは、動きのぶん pc が、質量のぶん mc² に比べてうんと小さい。すると全エネルギー E は mc² とほとんど同じ大きさになるから、E+mc² は 2mc² とみなしていい。
(E−mc²)×2mc² ≒ p²c²
両辺を 2mc² で割ると、c² が約分されて
E−mc² ≒ p²/(2m)
この左辺 E−mc² は、止まっているときのエネルギー mc² を超えた分――つまり運動エネルギーだ。そしてニュートン力学では、運動エネルギーは ½mv² と書ける。同じものを2通りに書いたのだから、等しいとおいてごらん。
p²/(2m) = ½mv² → p²=m²v² → p=mv
ほら、戻ってきた。効いたのは「E+mc² ≒ 2mc²」の一手だけ。これが成り立つのは、pc が mc² に比べて小さいとき――つまり光速よりずっと遅いとき、という条件つきだよ。
E²=(pc)²+(mc²)² = 直角三角形(三平方の定理) mc²(質量のぶん) pc(動きのぶん) E ↑ E−mc²(運動エネルギー) ゆっくりのとき pc は短く、斜辺 E は底辺 mc² とほとんど同じ長さ
0.30 c
pc ÷ mc² = 0.314 E+mc² ÷ 2mc² = 1.024 p ÷ mv = 1.048 まん中が「E+mc² ≒ 2mc²」の近似の精度。右がその結果として p=mv がどれだけ合っているか
E²=(pc)²+(mc²)² は、直角をはさむ2辺が pc と mc²、斜辺が E の三角形と同じ形をしている(三平方の定理)。速さ v を上げると縦の辺 pc が伸び、斜辺 E が底辺より目に見えて長くなる。逆にゆっくりのときは縦の辺がほとんど無く、E は mc² とほぼ同じ長さ――だから E+mc² を 2mc² で置き換えてよく、そこから p=mv が出てくる。音速(秒速340 m)でも v は光速の 0.0001 % ほどしかないので、p÷mv は 1.0000000000006 くらい。日常では p=mv が完璧に見えるのは、このためだよ。光速の 50% まで動かせる
うさ美
重さではなく、エネルギーを持っていることが運動量の源。そこは納得しました。……では、光子1個ではどうなりますか。エネルギーのほうは、さっき E=hν を手に入れたばかりです。
ねこ博士
では、それを使って計算しよう。E=pc を運動量について解くと p=E/c。ここにきみの言う E=hν を入れて、p=hν/c。そして光の速さは c=λν(1秒に ν 個ぶんの波長 λ が通過する)だから ν/c=1/λ。代入すると――p=h/λ。エネルギーの式と対になる、美しい式が出てくる。
光子1個:波長 λ を変えると、E と p はどうなるか λ 1500 nm ぶんの空間を切り取って描いている(可視光 運動量 p = h/λ ↑ 矢印の長さが p。λ を半分にすると p は2倍になる(反比例)
500 nm
ν = c/λ = 6.0×1014 Hz E = hν = 4.0×10−19 J p = h/λ = 1.3×10−27 kg·m/s この運動量は、145 g の野球ボールが秒速 9×10−27 m で進むのと同じ大きさ
上の波は、1500 nm ぶんの空間に実際の波長で描いたもの(可視光の範囲では波長に対応する色をつけている)。λ を短くすると波は詰まり、同時に下の運動量の矢印が伸びる――p=h/λ の反比例がそのまま見える。ν=c/λ、E=hν、p=E/c の3本が連動して動くので、どれか1つを決めれば残りは全部決まる。h=6.63×10−34 J·s、c=3.00×108 m/s を使用
うさ美
ここまではの話ですね。波だと思われていた光が、実は粒の性質(E と p)も持っていた。E=hν と p=h/λ は、波の量(ν, λ)から粒の量(E, p)への翻訳ルールになっている。……そして量子力学の教室で習ったのは、1924年にド・ブロイがこれを裏返したことでした。「光が『波なのに粒』なら、電子は『粒なのに波』ではないのか。翻訳ルールは同じ式のはずだ」。つまり運動量 p の電子は、波長 λ=h/p(※ p=h/λ と同じ式)の波として振る舞う。そしてこの予言は、のちに本物の実験で確かめられて、物質波は仮説から事実になった――と教わりました。ただ、どんな実験だったのかまでは聞いていません。
ねこ博士
そう。確かめたのは1924年の予言から3年後、1927年のデイヴィソンとガーマーの実験だよ。電子をニッケルの結晶に当てると、波にしかできない縞模様が現れた――こういう波の縞模様の作り方を回折と呼ぶ。発表当時は審査する側も判断に困ったほど大胆な類推が、こうして実験事実になった。ド・ブロイは1929年にノーベル賞を受けた。……これで役者がそろったよ。電子は、E=hν と p=h/λ という翻訳ルールを持つ波である。実験が保証してくれた、これが私たちの出発点だ。
ド・ブロイの「裏返し」(1924年) 「波」だと思っていたら 粒でもあった E=hν p=h/λ 電子 「粒」だと思っていたら 波でもあるはず λ=h/p ν=E/h 同じ翻訳ルールを、逆向きに使う。 → 1927年、電子の回折実験(デイヴィソン=ガーマー)で   本当に波長 h/p の波だと確認された
光で見つかった「波の量↔粒の量」の翻訳ルールを、ド・ブロイは電子に裏返して適用した。運動量 p で飛ぶ電子は波長 λ=h/p の波として振る舞う――3年後、結晶での回折実験が縞模様を映し出し、この類推は実験事実になった
ねこ博士
仕上げに、この辞書を私たちの波の式の言葉に合わせて磨いておこう。ステージ1で、波は λ や ν よりも、k=2π/λ と ω=2πν で書くのがきれいだと学んだね。辞書も同じ言葉に翻訳する。計算はただの代入だよ。
E = hν = h × (ω/2π) = (h/2π) ω
p = h/λ = h × (k/2π) = (h/2π) k
どちらにも h/2π という同じ塊が現れた。あまりに頻繁に出てくるので、この塊には専用の記号がある。ℏ(エイチバー)= h/2π ≈ 1.05×10⁻³⁴ J·s。これを使うと、辞書はたった2本、しかも美しく対称な形になる。
【波と粒の辞書】 E = ℏω  p = ℏk E:エネルギー(粒の言葉)↔ ω:角振動数(波の言葉) p:運動量 ↔ k:波数 ℏ=h/2π ≈ 1.05×10⁻³⁴ J·s
うさ美
読み下してみます。E=ℏω:速く振動する波ほど、エネルギーが大きい。p=ℏk:細かい波ほど、運動量が大きい。橋渡し役はどちらも同じ定数 ℏ。……そうすると、電子の波はこう書き直せますね。ψ=A ei(kx−ωt) の k に p/ℏ を、ω に E/ℏ を代入して――ψ=A ei(px−Et)/ℏ波の式の中に、運動量とエネルギーが直接入った
ねこ博士
その書き換えが、今日の到達点だよ。眺めてごらん。電子の波そのものが、E と p を「位相の進むペース」として体内に記録している。空間方向に p のペースでねじれ、時間方向に E のペースで回る。……そこで、次の問いが自然に生まれる。波の中に記録されているなら、取り出せるはずだ。式 ψ から、掛け算や足し算のような操作で、p や E を引きずり出す方法はないか? その道具が微分――次のステージの主役だ。

確認クイズ

Q1. 光電効果で、当てる光の「色」を赤から青に変える(振動数 ν を上げる)と何が起きる?

Q2. ド・ブロイが1924年にやったことは?

Q3. ℏ(エイチバー)とは何?

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