🌊 シュレディンガー方程式を導く
STAGE 6 ― 箱の中の電子 ―
クリア 0 / 8
🗺️ マップ
STAGE 6

箱の中の電子

解くと「飛び飛び」が出る
🎯 ミッション
幅 L の箱に閉じ込められた電子について、シュレディンガー方程式を実際に解こう。壁の条件から k=nπ/L が絞り込まれ、エネルギーが Eₙ=n²h²/8mL² と飛び飛びになる理由を説明できれば合格。
未達成
ねこ博士
では、方程式を初めて使ってみよう。問題はいちばん簡単なものにする。幅 L の箱の中に、電子が1個閉じ込められている。箱の中(0 から L のあいだ)では、電子はどこにいても力を受けない――前回の地形図の言葉で言えば、V の地形が完全に平らということだ。平らな床の高さは基準の取り方にすぎないから、いちばん簡単な 0 に選ぶ(箱の中では V=0)。次に壁だ。壁は「そこに入るには無限のエネルギーが要る場所」として作る。地形図で言えば、箱の両端で V が一気に無限大まで立ち上がる崖だね。V が無限大というのは現実の壁を理想化した言い方で、どんなに固い壁もものすごいエネルギーをぶつければ壊れるけれど、「いくらぶつけても絶対に入れない壁」がほしいときは V=∞ とおくのがいちばん簡単なんだ。物理屋はこの設定を井戸型ポテンシャルと呼ぶ。では、この設定を方程式に入れてみよう。方程式をエネルギーの帳簿として読み下すと、E ψ =(運動エネルギーの項)ψ + V ψ だったね。壁の外のどこか1点で、もし ψ が 0 でない値を持ったとする。するとその点では、右辺の V ψ が「無限大 × 0 でない数」で無限大になる。ところが左辺の E ψ は、E が電子の決まった有限のエネルギーだから有限のまま。有限=無限大は成り立たない。この矛盾を避ける方法はただ1つ、壁の外では ψ=0。見つかる確率 |ψ|² も 0 だから、波は壁の外には一切はみ出せない。これが、壁の条件を波の言葉に翻訳した第一歩だ。
井戸型ポテンシャル:これは「箱」ではなく ψ のグラフ
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これは電子が入った箱の絵ではなく、ψ のグラフ。横が場所 x、奥行きが時刻 t、高さが ψ の値(実部)。x=0 と x=L に立つ2枚の面が V=∞ の壁で、壁の外では ψ=0 の平らな面になっている(はみ出すと右辺の Vψ が無限大になり、有限の左辺 Eψ と等しくなれないから)。箱の中では波が時間とともに揺れる。青い断面が「いま」の形で、そこに立つ針(実部と虚部)は回るだけで長さを変えない――この形が本当に方程式に許される形かどうかは、このあと確かめていく
うさ美
外でゼロ、は納得です。でも、それだけなら、井戸に水を溜めるように壁の内側ぎりぎりまで波が高いままで、壁を境に段差でストンとゼロに落ちる形も、まだ許されていませんか? 「壁のちょうど上で ψ=0」とまで言い切るには、もうひと押し要る気がします。
ねこ博士
そのもうひと押しは、方程式そのものが与えてくれる。箱の中では V=0 だから、方程式はこう読める。
∂²ψ/∂x² = −(2mE/ℏ²) ψ
左辺は ψ の曲がり具合(傾きが変わる速さ)。右辺は、E も ψ も有限だから有限の数だ。つまり方程式は「箱の中のどの点でも、ψ の曲がり具合は有限でなければならない」と言っている。ここで、水を溜めたように段差でストンと落ちる形を考えてごらん。段差の一点では傾きが無限に急になる。傾きが一瞬で有限から無限へ変わるのだから、傾きが変わる速さ――曲がり具合――はもっとひどく無限大だ。有限=無限大で、方程式が成り立たない。だから V が有限の場所では、ψ に段差があってはいけない。ψ は途切れずにつながる(傾きが運動量の読み取りだったことを思い出せば、傾き∞=運動量∞と言っても同じことだ)。さらに言えば、段差がなくても「折れ曲がり」――傾きが急に変わる点――があるだけで、その点で曲がり具合が無限大になるから、箱の中では折れ曲がりも許されない。では壁の上ではどうか。壁の外は ψ=0 だった。ψ は途切れずつながるのだから、壁のちょうど上(x=0 と x=L)でも ψ は外側と同じ値、つまり ψ=0。これが、あとで効いてくる境界条件だ。ひとつ補足しておくと、壁の上だけは傾きが折れ曲がってよい。そこでは V が無限大で、方程式の Vψ の項が無限大を引き受けられるからだ。箱の中には、そういう逃げ道はない。……ちなみに壁の高さが有限(V=V₀、ただし V₀>E)なら、壁の中でも方程式は成り立っていて
∂²ψ/∂x² = +(2m(V₀−E)/ℏ²) ψ
と、右辺の符号がプラスに変わる。曲がり具合が ψ と同じ符号ということは、ψ が正のところでは下に凸――0 に向かって落ちながら、落ち方がだんだん緩くなる形(指数関数の減衰)だ。つまり波は壁の中へわずかに染み込む。この染み込みのせいで、十分に薄い壁なら波が向こう側へ通り抜けてしまう――トンネル効果と呼ばれる現象だ。V₀ を無限大に近づけると減り方が無限に速くなり、染み込みの幅がゼロに潰れて「端でゼロ」になる、と思ってもいい。
壁ぎわの2つの候補 井戸に水を溜めた形 壁の上でちょうど 0 になる形 段差=曲がり具合 ∞ 右辺 −(2mE/ℏ²)ψ は有限 ✕ 方程式が成り立たない 壁の上で ψ=0 曲がり具合はどこでも有限 ○ 方程式を満たせる
左:井戸に水を溜めたように、壁ぎりぎりまで高いまま段差で 0 に落ちる形。段差の一点(赤丸)では傾きが一瞬で無限大に変わるので、曲がり具合 ∂²ψ/∂x² が無限大。ところが箱の中の方程式 ∂²ψ/∂x²=−(2mE/ℏ²)ψ の右辺は有限なので、等式が成り立たない。右:壁のちょうど上(x=0, L)で ψ=0 になって外の 0 となめらかにつながる形。曲がり具合はどこでも有限で方程式を満たせる。この「壁の上で ψ=0」が境界条件
うさ美
はみ出しは位置エネルギーの請求、段差は運動エネルギーの請求で、どちらも無限大だから却下。帳簿ひとつで説明がつくんですね。……そうすると、両端が固定されている――ギターの弦と同じ状況ですね。弦も両端が留められていて、そこでは絶対に振動できない。……解く方針はどうしましょう。方程式には x と t の両方が入っていて、いきなり全部相手にするのは大変そうです。
ねこ博士
いい勘だ。そこで、まずはエネルギーがはっきり決まった状態だけを探すことにする。ステージ2の「回る針」の絵に、ステージ3で入れた辞書を重ねてごらん。時間の位相は Et/ℏ で進むのだったから、エネルギー E が決まっているとは、すべての針が同じペース E/ℏ でそろって回っているということになる。針の長さと初期角度の配置――つまり波の形は場所ごとに違っていい。そこで解の形をこう置く。
ψ(x, t) = φ(x) × e−iEt/ℏ
φ(ファイ)が「波の形」、e−iEt/ℏ が「そろって回る針」だ。これを方程式に入れると、時間微分は回転部分から −iE/ℏ を前に出すだけだから、左辺 iℏ∂ψ/∂t は E×ψ になる。両辺から回転部分 e−iEt/ℏ を割り落とすと、時間が消えて、形 φ だけの方程式が残る:
−(ℏ²/2m) φ″ = E φ (箱の中は V=0。φ″ は φ を x で2回微分した「曲がり具合」)
うさ美
「曲がり具合が、自分自身のマイナス定数倍になる形 φ を探せ」という問題ですね。……候補、思い当たります。sin です。ステージ2と4で確かめました。sin を1回微分すると cos、cos を微分すると −sin。つまり2回微分すると −1 倍になって自分に戻る。φ=sin(kx) なら、微分のたびに肩の係数 k も前に出るから、φ″=−k² sin(kx)=−k²φ。代入すると −(ℏ²/2m)(−k²φ)=Eφ、つまり E=ℏ²k²/2m なら方程式が成り立ちます。……あれ、でも待ってください。sin は「検出器が壊れる」からクビにしたはずでは?
ねこ博士
いいところに引っかかったね。クビにしたのは「p の検出器(1回微分)」に対してだった。1回微分だと sin は cos に化けて、値札が読めない。ところがいま使ったのは「p² の検出器(2回微分)」。2回なら sin はちゃんと自分に戻ってくる。物理的に言うとね、sin(kx) は右向きの波 eikx と左向きの波 e−ikx重ね合わせなんだ(オイラーの公式から sin(kx)=(eikx−e−ikx)/2i と書ける)。壁に挟まれた波は右へ行っては跳ね返り、左へ行っては跳ね返る。進む向きは決まっていない――だから p の値札はない。でも勢いの大きさはどちら向きでも同じ ℏk――だから p² の値札はある。ギターの弦が「その場で震えるだけで、どちらへも進まない」のと同じ、定在波だよ。
うさ美
納得です。では境界条件を当てはめます。φ(x)=A sin(kx) として――まず x=0。sin(0)=0 だから、左端は自動的に合格。次に x=L。sin(kL)=0 が必要です。sin が 0 になるのは、中身が 0, π, 2π, 3π……のとき。つまり kL = nπ(n は 1, 2, 3, …)。……k が、連続に選べなくなりました。k=nπ/L という飛び飛びの値しか許されない。
壁に「ちょうどはまる」波だけが生き残る x=0 x=L n=1 n=2 n=3 ✕ 中途半端な波長は、右の壁でゼロになれず失格
箱の中の定在波。両端(壁)で必ずゼロ、という条件に合うのは、半波長が箱にちょうど n 個はまる波(kL=nπ)だけ。n=1 はふくらみ1個、n=2 は2個、n=3 は3個。ギターの弦の基音と倍音とまったく同じ数学だ。条件に合わない波長は、右の壁でゼロになれずに失格する
ねこ博士
仕上げの前に、何か引っかかっていることはないかな。顔に書いてあるよ。
うさ美
……はい、ひとつ腑に落ちないことが。壁で φ=0 になることと、段差(ぷつんと切れる形)が禁止なことは分かりました。でも、途切れずつながってさえいれば、壁の直前まで高いままで、間際だけ崖のように急降下する形も許されますよね。段差ではなく、あくまで連続な急坂です。sin のような、なだらかな山の形でなければならない理由が、まだ見えていません。
ねこ博士
いい疑いだね。答えはこうだよ。形を決めているのは壁ではなく、いま解いている式そのものなんだ。−(ℏ²/2m)φ″=Eφ を読み下すと、「どの場所でも、曲がり具合 = −(一定の数)×その場所の高さ」という局所ルールになる。エネルギー E がひとつに決まった状態を探している以上、この一定の数(2mE/ℏ²)は全地点で同じでなければならない。すると――高い場所ほど強く下向きに曲げ戻され、ゼロの場所ではまっすぐ。壁から直線的に立ち上がって、高くなるにつれ頭打ちになり、対称に降りてくる。このルールを満たす形が、sin しか残らないんだ。なだらかさは仮定ではなく、計算の帰結だよ。……では、きみの言う崖の形はどうか。崖の区間では、高さは普通なのに曲がり具合だけが莫大――「曲がり÷高さ=一定」のルールが破れている。物理の言葉に翻訳すると、曲がり具合は運動エネルギーの読み取りだったね(ステージ4)。急な崖=波が細かい=運動量が巨大=莫大な運動エネルギー。崖つきの形も波として存在はできるが、それはエネルギーの高い段をたくさん混ぜ込んだ重ね合わせであって、E がひとつに決まった状態ではない。……納得できたかな。では仕上げだ。許された k=nπ/L を、さっき自分で出したエネルギーの式 E=ℏ²k²/2m に入れてごらん。
うさ美
Eₙ = ℏ²(nπ/L)²/2m = n²π²ℏ²/(2mL²)。ℏ=h/2π で h に戻すと、π²ℏ²=π²h²/4π²=h²/4 だから――Eₙ = n²h²/(8mL²)。……出ました。エネルギーが n²、つまり 1倍、4倍、9倍、16倍……という飛び飛びの値しか取れません。連続に変われない。誰も「飛び飛びにしろ」と命令していないのに、壁の条件と波の性質だけから、勝手に出てきた
ねこ博士
それこそが量子化――「量子力学」という名前の由来だよ。からくりを言葉でまとめると、閉じ込められた波は、ちょうどはまる波長しか選べない。波長が飛び飛びなら、p=h/λ も、E=p²/2m も飛び飛びになる。原子の中の電子も同じだ。箱の壁の代わりに原子核の引力で閉じ込められていて、形は違えど「ちょうどはまる波」だけが許される。だから原子のエネルギーは飛び飛びで、電子が段を飛び移るときに出す光も決まった色だけ――水素のスペクトルが飛び飛びの線になる理由が、これなんだ。シュレディンガーが1926年に水素で言い当てたのは、まさにこの仕組みだった。
うさ美
式をもう少し眺めさせてください。気づいたことが2つあります。1つ目、n=0 は入れてはいけないですね。sin(0×πx/L)=sin 0 はどこでも 0 で、波が存在しない=電子がいない、になってしまう。だから最低は n=1 で、最低エネルギー E₁=h²/8mL² はゼロではない。閉じ込められた電子は、完全に静止することができない……。2つ目、式の分母に がいます。箱を小さくするほど、エネルギーが跳ね上がる
ねこ博士
2つとも超一級の発見だよ。1つ目は零点エネルギーと呼ばれる。位置を幅 L に閉じ込めたら運動量を完全にゼロにはできない――これは量子力学の教室で出会った不確定性原理そのものが、方程式の解として顔を出した姿だ。2つ目は現代技術の心臓でね。量子ドットという数ナノメートルの半導体の粒は、まさに「電子の箱」。粒の大きさ L を変えるだけで、電子の段差が変わり、出す光の色が変わる。最近のテレビの鮮やかな色(QLED)は、きみがいま導いた L² の効果で色を調合しているんだよ。2023年のノーベル化学賞はこの量子ドットに贈られた。
うさ美
せっかくなので、量子力学の教室で習った不確定性原理と突き合わせてみたいです。幅 L に閉じ込めたのだから、位置のばらつきは Δx ≈ L。すると運動量は Δp ≈ ℏ/L より小さくできなくて、最低エネルギーはおよそ (Δp)²/2m ≈ ℏ²/2mL²。……あれ? 方程式を解かなくても、最低段の高さはここまで見積もれてしまいます。わざわざ方程式を解いた意味は、どこにあるんでしょう。
ねこ博士
実にいい問いだ。並べて比べてごらん。きみの見積もりは ℏ²/2mL²、厳密解は E₁=π²ℏ²/2mL²。π²≈9.9 倍の差はあるが桁はぴったり同じ――不確定性原理は、最低段の高さを正しく言い当てている。互いの検算として立派に働くね。そのうえで、方程式を解かないと手に入らないものが3つある。① 係数まで込みの正確な値。「およそ」ではなく π² 込みでぴったりだ。② 2段目から上の、はしご全体。E₂=4E₁、E₃=9E₁……という段の並びは、不確定性原理からは一切出てこない。原子の光の色を予言できるのは、段差が分かるからだ。③ 波の形 sin(nπx/L)。どこで見つかりやすいかという地図で、これも見積もりでは絶対に出ない。役割分担で言えば、不確定性原理は「床はゼロより上にある」と教えてくれる大原則、方程式は建物全体の設計図をくれる道具、というわけだ。
エネルギーの「はしご」 En ∝ n² エネルギー n=1(E₁:零点エネルギー) n=2(4E₁) n=3(9E₁) n=4(16E₁) E=0(静止)に段はない = 完全静止は許されない
箱の中の電子のエネルギーは、E₁ の 1倍・4倍・9倍・16倍……という飛び飛びのはしご。段と段の間の値は取れない。最下段 E₁=h²/8mL² はゼロより上にあり(零点エネルギー)、箱を半分に縮めると全段が4倍の高さに跳ね上がる
【箱の中の電子(幅 L・壁で ψ=0)の答え】 許される波:φₙ(x)=A sin(nπx/L)  許されるエネルギー:Eₙ=n²h²/(8mL²) (n=1, 2, 3, …) 閉じ込め+波 → 波長が飛び飛び → エネルギーが飛び飛び(量子化) 最低段 E₁>0(零点エネルギー)
うさ美
方程式が本当に「使える」ことが分かりました。……でも、解けば解くほど、置き去りにしてきた疑問が大きくなります。φ(x)=A sin(nπx/L) という波の形そのものは、いったい何を表しているんですか? 電子は1個の粒として見つかるはずなのに、波の形が箱じゅうに広がっている。この ψ の正体を、そろそろはっきりさせたいです。
ねこ博士
それが次のステージの主題だよ。実はこの問いは、シュレディンガー本人が答えを間違えたいわくつきの難問なんだ。正しい答えを出したのはボルン。ステージ2に張った伏線――「観測にかかるのは |ψ|」――を、いよいよ回収しに行こう。

確認クイズ

Q1. 箱の中の電子で、波数 k が k=nπ/L という飛び飛びの値に限られる理由は?

Q2. n=0(E=0 で静止した状態)が許されない理由は?

Q3. 箱の幅 L を小さくすると、最低エネルギー E₁=h²/8mL² はどうなる?

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